学生デザインレビュー2005は今回で10回目を迎え、節目の年となった。参加者数も103点というこれまでで最高の数となり、アジアに視点を向けたということもあり、韓国、台湾からも7名の参加者があった。
九州産業大学美術館を会場として一日目は公開審査が行われた。外気温2度で雪が降るというとても3月とは思えない天候の上、会場のアートギャラリーには暖房が無かったためにかなり寒い環境ではあったが、参加した学生、クリティークそして運営スタッフの熱気が、寒さをしばし忘れさせてくれた。今回のクリティークは、非常にバラエティに富む人選となった。東京からは初期デザインレビューに参加していただいていた伊東豊雄氏と若手建築家で出版や不動産紹介などの活動も行う馬場正尊氏。福岡を代表する女性建築家の松岡恭子氏。韓国釜山から学生を引率して来ていただいた仁済大学の田采輝(Chehui
John)氏、中国上海で建築に関する出版、プロデュースなどの活動をしている周暉(Hui
Chow)氏である。
公開審査では学生が作品の横に立ってクリティークや来場者と議論した後、投票を行い、2日目のプレゼンテーションに進む10作品を選出した。作品数が多いこともあってボーダーライン上の作品を選ぶのには労を要したが、クリティークが議論の中で票を入れ替えながら作品を決める駆け引きはなかなか興味深かった。また、同時に全国学生卒業設計コンクールに九州代表として参加する7作品が選ばれた。引き続き、作品を前にしてのパーティーと近くの居酒屋での2次会が行われ、参加者たちは交流を深めた。
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プレゼンテーション |
会場風景 |
2日目は学生による作品のプレゼンテーションと議論をおこなった。司会に建築批評家の土居義岳氏を迎え、5名のクリティークがそれぞれの作品批評を展開した。2日目会場のアートギャラリーは暖房がきいていたので、快適に過ごすことができた。プレゼンテーションは例年に比較すると時間通りスムーズに進んだ。これは、学生が皆パワーポイントを使ったために発表時間がきちんとコントロールされたことが大きい。最後にクリティークの挙手によって学生設計選奨作品の6作品を選出したが、今回はクリティークからの提案でトーナメント方式によって最優秀作品を一つ決めることになった。この目的は作品についての議論をより深めるためと会自体を盛り上げるためだが、ゲーム的な要素が大きいだけにイベントとしてはなかなかおもしろかった。デザインレビューに参加する作品は大学の卒業設計だけでなく、高専や大学1、2年生の課題でも、大学院生のコンペでも良い。さらに海外からの作品もある。レベルも様々、テーマも様々な作品同士を比較して優劣を付けるのには、そもそも無理がある。しかしそれを承知の上であえて比較したときに、実は建築がもつ本質的な価値が問われるように思う。対象も規模も密度も何でもありという土俵の上では、建物自体が持っている「もの」としての価値を比較することの意味が薄れ、建築という行為を通じた「思考」の価値を比較することに焦点が移ってくるからだ。これは実際にある建物を評価する場合にも当てはまる。そうでなければ一人の建築家が作った小住宅と組織事務所の巨大プロジェクトを比較することなどできない。
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01_diagram |
さて、結果として最優秀に選ばれたのは、住空間を作るシステムを提案した大学2年生の課題を発展させたプロジェクトだった。その「思考」のシンプルさと発展可能性が、並み居る先輩たちの力作よりも評価されたのだ。はてさて、建築とは難しいものだ。瑞々しいアイデアを持つ2年生の彼らが、これからきちんと大学で建築を学んだ後に、再びこの出発点となるプロジェクトへと帰ってくることができるかどうかが問題だ。こうした声がクリティークたちから聞かれた。大学の教育は瑞々しい思考を後退させてしまうことが共通認識として語られているのだ。大学で正規の建築教育を受けていない建築家が、少なからず第一線で活躍しているという事実は、今の大学の建築家教育の問題点を示しているのかもしれない。そんなことも考えさせられた。
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表彰式 |
以下はdr2005選出学生のリスト。(●印はプレゼンテーション選出作品)、
(※印はJIA学生設計選奨)、(※※は最優秀賞)、(☆印はJIA九州学生卒業設計選奨)
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